5 映画 銀幕に酔う

邦画『隠し剣 鬼の爪』

『清兵衛』と同じ香り 夫婦愛に異なる味わい

 (山田洋次監督、2004年10月)

 2時間、じっくりと楽しめた。やはり日本映画はいい。特に時代劇になると、画面のすみずみ、科白の端々から伝わってくる情報、空気、匂い、ニュアンスが、洋画よりも圧倒的に多く、密度も濃いからだ。

 見終わるとどうしても、同じ藤沢周平原作、山田洋次監督の『たそがれ清兵衛』(2002年11月)を想い出してしまう。

 基本的な構図はとてもよく似ている。清く正しく生きる東北の下級武士が主人公。その男、だれもが認める剣の遣い手でもある。わきには気立てのいい女性(松たか子、清兵衛には宮沢りえ)がいる―。

 どちらが面白いか。やはり清兵衛を最初に観たときの新鮮さがあまりに印象的で、そちらに軍配を上げざるをえない。しかし『隠し剣』も、それぞれの夫婦愛という別の視点からみると、味わい方はまた違ってくるだろう。

 観終わって館内が明るくなると、周囲を見た妻がぽつりと言った。「みな、おなじ年代よ」。僕も見回すと、中高年の夫婦ばかりだった。

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