2 小説 物語に浸る

伊集院静『眠る鯉』

きらめく才能 鮮やかな筆ショット

(文春文庫、初刊は2003年)

 伊集院のきらめくような才能と侠気をたっぷりと感じ取った。

 ぼくよりふたつだけ年長のゴルフ大好き作家。名コース写真集に書いた文章を少し前に読んだときは、たいしたことないなあとえらそうに思った。ところが本職の小説を読むとその技の深さ、描写の的確さをあらためて感じる。

 人生の終盤にさしかかった男の内面に潜む過去、それも血が出る物語を、鮮やかなシテュエーションでよみがえらせてくれる。

 文末の解説で清水良典氏が、『眠る鯉』には『眠る恋』の響きが隠れている、と書いていた。なるほど、こちらはこちらで、うまく評するなあ。