2 小説 物語に浸る

伊集院静『冬のはなびら』

あふれる滋味 文字で愛でる花

 (文春文庫、初刊は2003年)

 ほぼ同時期に書かれたと思われる『眠る鯉』があまりに面白かったので、じゃあこれもと、と読んだ。

 裏切られなかった。人生が一本道ではなく、たとえ回り道をしても人それぞれに相応の味わいと襞が熟成されることを深く思う。そう思わせる分厚さ、人間の性(さが)の深さが書いてある。

 登場人物はおおむね『眠る鯉』よりも年配だろう。そのぶん物語は静かにゆっくりと進む。さらにそのぶんだけ小説の味わいも滋味にあふれ、いつくしみがより濃いものになっているように思う。

 花が随所に出てくる。ぼくにはなじみがない名前が多いが、「漢字で愛でる」と実に美しい花ばかりだ。妙に色っぽかったりもしてかっこいい。作家の天性として、漢字によるイメージ喚起力を大事にしているのだろう。

 この作家はゴルフ上手でもあるので、少し前に海外の名門コースを巡る旅の写真本も出し、文章を添えている。コースそのものやプレーに関する記述にはそんなに魅かれなかったのだが、コースわきの植物については異彩を放っていた。

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