3 随筆 個性に触れる

松井秀喜『不動心』

「サムライ」に最も近いのはこの青年

 (新潮新書、初刊は2007年2月)

 「『心の構え』で挫折は力に変わる」と帯にある。いいキッャチコピーだ。『不動心』という題名とあわせて、スラッガー松井の野球に向かう姿勢の真摯な印象がストレートに伝わってくる。

 本の中身もそれを裏切っていない。おそらくプロのライターの聞き書きだと思うが(もし違っていたら、ごめんなさい)、いつもテレビ画面で見せてくれる表情やしぐさと相まって、彼が考えてきたことや、いつも考えていることがわかりやすい言葉とともに、腹に落ちてくる。

 文中に母校・星稜高校のベンチや練習場に書いてある「言葉」が出てくる。「●が変われば●が変わる」が、次のように連鎖していくのだそうだ。

 心 → 行動 → 習慣 → 人格 → 運命

 なかなか単純には結びつかない連鎖だが、「変われば」を挟みながら何度も口ずさむと、妙なリアリティがある。「不動心」とのマッチングはどうなるの、という突っ込みは無用と思わせる。

 何よりも野球に取り組む姿勢の居住まいの良さというのを強く感じる。それを潔癖なまでに通そうとするところが、彼の真骨頂だろう。

 BBCに参加しなかったところもその延長かもしれない。いわゆる「サムライ」にもっとも近いのは、イチローではなくて、この青年ではないだろうか。

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