2 小説 物語に浸る

池波正太郎『侠客』

筆づかい生き生き 顔だし解説も新鮮

 (新潮文庫、初刊は1969年)

 「お若えの、お待ちなせえやし」。これって、どこか何かで耳にしたことがあるセリフだが、いつだれがどんな場面で発したことで有名になったかは、この小説を読むまで知らなかった。

 その台詞を発した男、幡随院長兵衛(塚本伊太郎)の生涯を描いた長編小説である。敵討ちから始まり、町奴と旗本の対決へと進んでいく。

 池波正太郎の生き生きとした筆づかいはさすがだ。小説の途中でときどき筆者が顔を出してきて、その時代や出来事の背景を説明するところも新鮮で、ぼくは好きだ。

 ひたすらその時代に入り込んだまま物語が進んでいくより、現代からの歴史の目をはさみこむことで、リアルさがより増す感がする。

 藤沢周平ももっと読みたくなった。

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