5 映画 銀幕に酔う

邦画『終の信託』

尊厳死に白黒で臨む検察 監督と怒り共有

 (周防正行監督、公開2012年10月)

 周防監督の新作。尊厳死を望む患者と、それを受け止めようとする医師の倫理の複雑な問題を、自分たちが描いたシナリオ通りに捜査を進めようとする検察捜査への批判もからめながら、これでもかと真正面からぶつけている。

 周防監督の妻でもある草刈民代が医師、役所広司がぜんそく患者、大沢たかおが検察官を演じる。いずれも好演、熱演している。ただときどき台詞が長くなりすぎて、少し冗長な感じがする場面もあった。

 ぼくは尊厳死の問題よりも、検察の取り調べにおける作為的かつ強権的な手法に、監督が抱いているだろう怒りを共有した。もともと白黒をつけにくい問題に、単純なストーリーで白黒つけないと”仕事”にならないという姿勢の検事の愚かさ。そのあたりが監督が描きたかったことではないか。

 前作の『それでもボクはやってない』も、日本の司法の分厚い壁に問題意識をぶつけていた。『シコふんじゃった』や『Shall weダンス?』で見せてくれた快活感や娯楽性は今回もあえて閉じ込めている。次の新作ではどんな世界を見せてくれるだろうか。

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