5 映画 銀幕に酔う

邦画『東京家族』

どの立場から観るか 景色はがらっと変わる

 (山田洋次監督、公開2013年1月、MOVIX三好)

 ぼくも何度か観た小津安二郎の古典的名作(1953年)を、こちらも数多の作品を楽しんできた山田洋次監督がリメイクしてくれた。このふたりの組み合わせだから、見どころは満載である。

 この映画、どの立場から観るかによって景色はがらりと変わる。若いころ小津作品を観たときは、長男か二男の目線だった。60歳をすぎたいまはもちろん、広島に住む年老いた夫婦に寄り添って観る時間が長かった。

 さらにぼくは翌日の日曜日には、東京に住む長男と長女の家族を訪ねることになっていたので、しみじみとした思いで画面を追った。

 リメイク版の設定は長男が医師、長女が美容師、二男が舞台装置設営。こちらは妻のきょうだいによく似ているので、その目線に切り替えると、ぼくは長女の夫の「髪結いの亭主」(林家正蔵)ということになる。それはそれで、苦笑しながら家族のやりとりを楽しむことができた。

 東日本大震災の影響で、撮影が1年遅れたという。随所に震災の話も織り込まれていた。

 居酒屋で、70歳をすぎた父親(橋爪功)が友人につぶやく。

  「日本はこのままでいいのか」

 これは山田監督から社会全体へのメッセージでもあるだろう。

 さらに父親は映画の最後、息子の嫁にこう話す。

  「あなたのやさしさに触れて、息子は大丈夫だと思いました」

 これは若者へのメッセージのように思えた。やさしさが命だよと。深読みがすぎるだろうか。

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