4 評論 時代を考える

藻谷浩介『里山資本主義』

森や田畑を再利用 安心のサブシステムに 

(角川ONEテーマ21、2013年7月)

 あの『デフレの正体』(2010年6月)で注目を集めた著者の新作である。このテーマのドキュメンタリー番組をともに制作したNHK広島放送局のディレクターたちとの共著というスタイルをとっている。

 『デフレの正体』では、デフレは生産人口の減少で起きていると明快だった。処方箋も①若年層への所得移転②女性就業率のアップ③外国人観光客の増加-と具体的に提示し、どれも実現可能と思った。

 今回は、森林や田畑という資源をもういちど生活の中で再活用して、サブシステムとして「安心の基」にしようという提言である。森や田畑はいまや日本のやっかいものというか、マネー資本主義によって取り残されてしまっている。そこを逆手に取り、チャンスに変えようとしている。

 ほとんどの村の赤字は、エネルギー(電気とガス)とモノ(自給できない食料)の購入代金が原因だ。エネルギー源を木くずに、食料を地元でとれる食材に切り替えれば、精神的な安寧も得られると説く。

豊富な具体例 言葉遊びにも智恵

 NHK広島の守備範囲である中国地方で見つけた「元気で陽気な田舎のおじさんたち」の挑戦例が面白い。にやりとしたり勇気づけられたりする。

 たとえば広島県庄原市の和田芳治さん。「脳軟化症」ならぬ「のう、何かしよう」と仲間を集めエコストーブを開発して普及に努めている。「里山を食い物にしよう」を合言葉に、放置された資源に再び光を当てる活動もしている。

 さらに年とった「高齢者」を「光齢者」と呼んで、いっぱい経験して輝ける年齢に達した人と扱う。「省エネ」は「笑エネ」、「市民」は「志民」と呼ぶ。田舎暮らしを楽しいと考えるための言葉遊びだという。

 具体例が豊富でヒントも散りばめられている。それを補強する理論も整えてあるので読み応えがある。じっくり読みなおしてみたい。ぼくも退職後に「都会の元気なおじさん」として自宅や庭で実践できることがありそうだ。

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