2 小説 物語に浸る

池井戸潤『下町ロケット』

実現への道のりにひねり エンタメ系企業小説

 (小学館文庫、初刊は2010年11月)

 2011年上半期の直木賞受賞作。半沢直樹のテレビドラマを通して、池井戸ワールドに触れてはいたが、原作を読むのは今回が初めてだ。

 下町の小さな町工場が奮起してロケット部品の納入に成功する話。読んでみると、実現までの道筋はひねりが効いていて、その過程の中に作品の魅力と筆者の本質が詰まっているように感じた。

 大企業の経営戦略の非情さと浅はかさ、尊大な態度が出てくる。銀行が保身に走る姿もリアルだ。当然、中小企業の悲哀と反発もたくさんある。それらは半沢直樹シリーズと共通する要素でもある。

 筆者は企業・経済小説の中でどんな立ち位置にいるのだろうか。城山三郎、江上剛、高杉良、高任和夫、幸田真音…。こうした人たちの作品と比べると、エンタテイメント色が強い気がする。善人と悪人とがはっきりしていることもあって、映画やドラマにしやすい面もあるだろう。

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