5 映画 銀幕に酔う

邦画『空海』

1200年前の天才僧 本とあわせて全体像

 (佐藤純彌監督、公開は1984年4月)

 30年以上も前の映画。空海を北大路欣也、最澄を加藤剛が演じている。2週間前から読んでいる高村薫空海がとっつきにくく、空海の人生やその後の真言宗の全体像をてっとり早く把握できないかと思い、DVDで観た。

 高村本ではほとんど言及がない青年期や、最澄とのつきあいが、映画らしい生々しさで再現されている。『ダ・ヴィンチ・コード』では先に映画を観てから原作を読みまた映画を観たが、同じように本と映画をセットに体験してみてやっと、1200年前の全体像がなんとかつかめた気がする。

 ぼくが山場と感じ印象に残ったシーンがいくつかある。

  • 富士山の噴火で逃げてきた村人たちと洞窟内で遭遇し、彼らが自暴自棄になるのをみた別の僧が「男と女は愛し合って今を生きろ」と唱え、その様子が曼陀羅図とオーバーラップするところ
  • 唐において密教のすべてを空海が授けられるところ
  • 四国・讃岐の満濃池の堤防工事現場で祈祷するところ
  • 最澄とは最後に不和になるところ

 高野山のシーンが少ないのに、意外性と驚きがあった。高村本も同じような傾向がある。高野山は空海が開創し、いまは真言宗の総本山として栄えている。しかし空海の死後は70-80年も「暗黒」のままであったとされる。

 スケールの大きい空海の実人生を語るうえでは、いまこそ「大師さま」を敬う高野山も、それほど大きな位置を占める場ではないという見方なのだろうか。

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