4 評論 時代を考える

橘玲『言ってはいけない』

建前なしの潔さ 立ち尽くすしかない

(新潮新書、2016年4月)

 この筆者の本を本棚で数えてみたらすでに6冊もある。共通していることがある。きれいごとや建前は書かない。大嫌いなのだ。

 ぼくが初めて読んだのはベストセラー『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(2002年)だった。資産運用のノウハウ本と思ったら、中身はまったく違った。日本の社会や税制度、日本の国際的な位置づけについて知識が豊富だけでなく、冷徹で常識に頼らない独立した哲学と目線を持っていた。

 この本も読んでみて、日本を含めあらゆる枠にとらわれず、自在な物書きでいたいという欲求を感じる。世界各国のインテリが憧れ、めざす世界のひとつだろう。

 現実の欲や俗、よごれやにおい。それとは向こう側にある理念や想念、潔白や香り。それぞれに引き寄せられる気持ちの両方を感じ取りながら、それらとは独立したところに立とうとする人のように思える。

 読むとどきりとする指摘の連続だ。世の中の仕組みの前提とか常識と思っていることの中には、最新の実験や知見において、単なる思い込みに過ぎないことがこんなにある―と。美醜、躁鬱、子育て…。

 筆者はまえがきで、この本に書かれていることにはすべてエビデンス(証拠)がある、と言い切っている。さらにあとがきでは「不愉快なものにこそ語る価値があると考えている。きれいごとをいうひとはいくらでもいるのだから」とも書いている。

 この潔さの前では、ぼくはぼうぜんと立ち尽くすしかない。

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