3 随筆 個性に触れる

池波正太郎『男の作法』

格好良すぎる「年寄りの戯言」

 (新潮文庫、初刊は1981年4月)

 池波正太郎が58歳の時の「語り下ろし」である。池波が直接書いたのではなく、友人との自由な会話の中で語った内容をまとめている。

 この本を手にするきっかけは、弘兼憲史の『男子の作法』だった。本屋でまえがきを読んだら、『男の作法』の現代版を書こうというのがきっかけ、とあった。では先に本家からと読んでみた。

 洒脱で食通の作家が語る話は予想以上に具体的だった。

  • 刺身を食べるときは、ワサビは魚にちょこんと載せて。醤油にといてからでは、お互いの良さを消してしまう。
  • ビールは3分の1くらい注いでは飲み切り、注いでは飲み切るのがうまい。飲み残しがあるのに注ぎ足すのはまずくなる。
  • 寿司屋では、しゃり、おてもと、むらさき、あがり、がり、は寿司屋仲間の隠語。客は素直に、ご飯、箸、醤油、お茶、しょうが、と呼ぶのがいい。
  • 寿司屋で出てきた握りすぐ食べずにしゃべり続けるのは愚の骨頂

 ダンディーな作家に説教は似合わないかもしれないけど、36年後の今でもすごく役に立つ。こんなこと、だれも教えてくれなかったからだ。そのあたり、筆者が文庫版のまえがきで書いている文章も面白かった。

忸怩たる思いがするのは『男の作法』というタイトルだ。私は、他人に作法を説けるような男ではない。(中略) 変えないでくれとのことで、仕方もなく、そのままにしておくことにした。どうか年寄りの戯言とおもわれ、読んでいただきたい。

  さて弘兼の現代版はどんな作法を教えてくれるのだろう。

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