1 ゴルフ 白球と戯れる

中部銀次郎『もっと深く、もっと楽しく』

スイングは字にできない アドレスは書ける

 (集英社文庫、初刊は1987年)

 この本も、ぼくがゴルフにはままり始めたころに読んだ。10数年ぶりに読み返してみて、もっともよく覚えていたのは、プロのある試合の決勝の前に、最終的な優勝者を、なんとカメラマンが予想して当てた時の話である。記者でも、ましてやライバルプロでもなかった。

 ゴルフの試合のカメラマンというのは、ティグランドの斜め前方から選手がドライバーで打つためにスタンスを固めたところを望遠レンズでとらえておき、プレーヤーが打ち終わってボールの行方を目で追っている時に初めてシャッターを切る。優勝者を言い当てたカメラマンはこう言った。「そのプレーヤーだけが、体がぶれていなかった」。

 中部はこの話を紹介しながら「プロの目はすごい」と書いている。ここをよく覚えていたのはなぜだろうか。ぼくがずっといた取材現場や編集局が、カメラマンたちと近い職場だったからだろう。

 この本で中部は言い切る。

 文字で書かれたレッスン書に意味はない。信じないし、読まない。人間のボールを打つという動作は、極めて複雑で多くの要素からできており、言葉でいろいろ説明していたら、動けなくなる。

 しかし「アドレスは別だ、自然に立て」と言う。

 髪の後ろの上を斜めに引っ張られるようにあごを少し上げ、下目遣いでボールを見よ。
 そうすれば左肩があごの下に入り、インサイドインに振りやすくなり、右肩があご下へ入りやすくなる。

 まだいくつかある。

 壁を頭につけて、フルのシャドウスイングをしろ
 一日に5分、柔軟体操をしなさい。あとはひたすら練習をするのみ
 いま月に4ラウンドなら、うち2ラウンドを練習に回せ

 うーん、このあたりなら、ぼくもできる。自分の欲望との闘いでもある。なんともストイックな人であり、ストイックな指南書である。

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