
グランパス 2点差追いつきPK勝利

5年かけて建て替えられたパロマ瑞穂スタジアムを4月19日に訪れ、杮(こけら)落としゲームの名古屋グランパスvsアビスパ福岡を観戦した。ぼくも応援した地元グランパスが「新しい聖地」で2点差を追いつき、PK戦で勝ったときの歓喜とどよめきは、大屋根で反射し、開放的で心地よい3階コンコースを通り抜けていった。山手グリーンロードからのアプローチ、波打つ屋根の外観もぼくは気に入った。
(パロマ瑞穂スタジアム、2026年4月19日)
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旧競技場に思い出いっぱい
建て替え前は長く「名古屋市瑞穂公園陸上競技場」という名前だった。Wikipediaによれば戦前の1941年にトラックができた。戦後にスタンドが作られ、改修を重ねながら陸上競技とサッカーの試合の会場として2020年まで利用された(写真①)。


<▲写真① 旧陸上競技場=wikipediaから>
ぼくが1971(昭和46)年に大学生として名古屋に住み始めたときはすでに、東海地区を代表する陸上競技場だった。記憶をたどるとあわせて10回は訪れていた。
・大学の400m走者→インカレ予選で2回
・市民ランナー→20kmシティマラソン4回
・運動部長→女子マラソンとグランパス観戦
・陸上ファン→2016日本陸上選手権を観戦
老朽化が進んだのと、愛知・名古屋アジア大会の2026年開催決定を受け、2021年から建て替え工事が始まっていた。ぼくは50年の記憶をたどりながら、建物も名前も新しくなったスタジアムの外と中を歩き回ってから、チケットのある席に妻と座った。
席はバックスタンド最上階


ぼくらの席はバックスタンドのグランパス寄りだった。3階コンコースから上層スタンドの階段を登り切って上から2列目。ほぼ最上階で、ゴールラインを高さ35mほどから見下ろす位置だった(写真②③)。
そこは、ネット販売でわずかに残っていた「連続2席」のひとつだった。ふたりで1万3420円。やっとの思いで席にたどりつき、スタジアムを見まわしたとき、正直に思った。あの値段でここなの ? でも結果的には正解だった。
この日の試合は新スタジアムの初のイベントゲームであり、グランパスはここを「新しい聖地」と銘打っている(写真④)。キックオフ前には派手なショーもあった。この雰囲気は、もうひとつのホーム、豊田スタジアムとはかなり違っていただろう。

それが気負いや硬さにつながったのか、前半24分にFKから先制を許し、35分にはカウンターから追加点を奪われた。その2失点はぼくたちのすぐ斜め下で起きた。素人目にも、グランパスのパス交換の精度は低くみえた。守備もすきだらけに思えた。
劇的2ゴールも眼前で
前半が終わるとぼくたちはトイレへと降りていった。後半が始まっても席には戻らず、3階コンコースをゆっくり歩いて周回し、新スタジアムの大きさと空間を味わった。この回遊路は開放的で気持ちよかった。内側(ピッチ側)も外側も壁がないから、視界が開けている(写真⑤)。抜けていく風も心地いい。

歩きながらピッチをチラチラ見ていると、後半になってグランパスの動きがよくなった気はした。でも点にはなかなかつながらない。コンコースをほぼ1周すると、妻は翌日の登山に備えて体を休めるため、先に会場を離れた。

残ったぼくは、席の真下の3階コンコースから試合を見ながら思案していた。席まで戻るかどうか―。決めかねていた後半38分、左サイドからの折り返しボールが、ゴールの右サイド、ぼくの目の下にいた浅野選手の頭にぴたりとあった。
浅野選手が頭で跳ね返したボールは、相手キーパーの両手のわずか上を越え、ゴール左上に吸い込まれていった(写真⑥)。浅野選手、キーパー、ゴールが一直線に並んで見えていて、ぼくの位置が高いので、ボールの弾道もはっきり見えた。
あと1点だ。3階コンコースのその場所から動けなくなった。もしかしたらと願い続けた10分後だった。左サイドの味方のシュートを、ゴール前の木村選手が左足で球の方向を変えて、ゴール左すみに突き刺し、試合終了寸前に同点に追いついてしまった。
つまりこの日の4点とも、ぼくの目の斜め下で起き、しっかり見ることができた。グランパスサポーターの歓喜も斜め右に見ることができた。席がもたらした幸運だった。
どよめき 反射し通り抜けて
グランパスが同点に追いついた時のどよめきには、これまでに味わったことがない響きがあった。スタンドを覆う大屋根に反射して、ぼくの頭付近に舞い降りてきた。水平方向の響きは3階コンコースと大屋根の下を通り抜けて、スタジアムの外にある樹木や公園、住宅へと伝わっていった気がした。

ナゴヤドームやポートメッセのように、囲われた空間と何かが違う…。ドームやアリーナでは、歓喜やどよめきが幾重にも折り重なり、さらにその響きはすぐに大きな塊(かたまり)になる感じがあった。
大地や空や街との一体感
しかし瑞穂スタジアムでは、その後のPK戦でグランパスが勝利を決めたときの大歓声も、ドームとは別の感じがした。大地や空や街との一体感、とでも呼べばいいだろうか。どよめきは中央ピッチに吸い込まれ、その真上の大空へも拡散し、3階コンコースを通り抜けていき街とも歓喜を共有している―。サッカー特有の響きかもしれない。


建築 3つのお気に入り
段丘アプローチと波打ち屋根

新スタジアムの内外を歩いて最初に気に入ったのは、山手グリーンロードからのアプローチと外観だった(写真⑨)。大階段と広場が段丘上に配されている。ぼくはほかの人たちとともに気分を少しずつ高めながら、正面入り口への階段を登っていった。

3階にある正面ゲートの前も大きな広場になっていた。大屋根がゆるやかにウェーブしているのがよくわかる。正面入り口付近だけ低くなっていて、観客を「こっちだよ」と誘っているようだ(写真⑩)。スポーツ施設の大建築は、たくさんの人が集まり、周辺を動き回ってこそ見栄えがする―。その思いをまた強くした。
わきを走る山手グリーンロードからのビューはひと味違った。歩道ブリッジと、反り返りつつ湾曲する大屋根がダイナミズムを生み出している(写真⑪)。この道は月に何度か車で走っている。車窓からの眺めをこれからどう感じるかも楽しみだ。

このスタジアムは、10月にある愛知・名古屋アジア大会の開会式会場になる。陸上競技もここだ。「大会の顔」としてアジア各国や日本全国に「NAGOYAの高揚感」を伝えてほしい。この日のように、観客がたくさんいるときこそ見栄えがするだろう。市民が会場に詰めかけてこそ―。大会成功の秘訣はやはりそこにありそうだ。
開放的な3階コンコース


お気に入りの2番目は、すでに書いた3階コンコースだ(写真⑤)。スタジアムの3階部分を楕円状につないでいる。20分もあればスタジアムをゆっくりと一周できた。

幅は30mくらい。下層スタンドと上層スタンドをつなぐ大動脈になっている。柱や階段、売店、トイレ以外は壁がないから、左右とも視界が開けている。
内側の地上レベルにある競技場も見えるし、外側に広がる公園や住宅もよく見える。風が吹き抜けていく。イベントがないときに走るのはもちろん、イベント時なら歩くだけでも楽しいだろう。もしかすると新スタジアムの最大の魅力になるかもしれない。
「8」の字のループ

桜で有名な山崎川をはさんで、スタジアムの向かい側には、10mほどの楕円回遊路も新設された。スタジアムの3階コンコースとつなげると「8」の字になる(写真⑬)。

全長はちょうど1km。スタジアムでイベントがない日なら、だれでもジョギングやウォーキングを楽しむことができる。内と外を結び、途中でクロスする8の字―(写真⑭)。こんなジョギングコースはほかにないだろう。
「近い」けど「遠い」
地下鉄へ向かう帰路で回りを見まわすと、ほとんどの男女が赤のグランパスユニフォームを着ていて、劇的な勝ちの余韻に浸っていた。真後ろを歩いていた男性ふたりが、こんな会話を交わすのが聴こえた。
「やっぱ、豊スタより近くて、らくちんだね」
「そうなんだけど、ピッチまで遠すぎない?」
この新スタジアムの評価がサッカーファンの間で議論になれば、きっと、この問題にゆきつくだろう。
観客→ピッチの距離
新しい瑞穂スタジアムは陸上競技場でもあるので、ピッチの外側に9レーンのトラック、さらにその外側に走り幅跳びの助走路と砂場がある。ぼくの席があったバックスタンドの最前列からピッチまで、目算で40m前後あるように見えた(写真⑮)。

豊田スタジアムはサッカー専用だから、観客席とピッチの間にトラックはない。フィールドの幅はサッカーが68m、ラグビーが70m。ラグビーワールドカップを観戦したときの写真から推測すると、サッカーのときの最前列からピッチまでは15mほどにみえる(写真⑯)。選手の息遣いまで聴こえるという迫力は、瑞穂スタジアムとは比較にならないだろう。


<写真⑯ 豊田スタジアムでのラグビーワールドカップ=2019年9月23日、団野撮影>
観客→スタジアムの距離
アクセスも大事だ。ぼくの最寄り駅である地下鉄「八事日赤」駅を基点にして、かかる時間と交通費をグーグルマップで検索すると、こんな結果が出た。
・瑞穂スタジアムまで
20分/乗り換えなし/240円
・豊田スタジアムまで
70分/乗り換え数回/760~960円
選択肢が増えた
どっちがいいとか、優れているという話にしてしまうとなんだかつまらない気がする。グランパス応援の選択肢が増えた、と思いたい。対戦チームと試合日の自分の予定、チケットがとれそうな席はどのあたりかを勘案して選んでいこう。
次は、最前列のチケットを買い、豊スタまで行ってみるとするか。
