8 街歩き 建築を味わう

瑞穂スタジアムの杮落とし どよめきと歓喜 波打つ屋根に反射

 <▲「新聖地」初戦を制したイレブンを祝福するサポーターたち=団野撮影>

グランパス 2点差追いつきPK勝利

 <▲ 正面から見たパロマ瑞穂スタジアム>

 5年かけて建て替えられたパロマ瑞穂スタジアムを4月19日に訪れ、杮(こけら)落としゲームの名古屋グランパスvsアビスパ福岡を観戦した。ぼくも応援した地元グランパスが「新しい聖地」で2点差を追いつき、PK戦で勝ったときの歓喜とどよめきは、大屋根で反射し、開放的で心地よい3階コンコースを通り抜けていった。山手グリーンロードからのアプローチ、波打つ屋根の外観もぼくは気に入った。
 (パロマ瑞穂スタジアム、2026年4月19日)

席はバックスタンド最上階

 <▲写真② ぼくの席から見たキックオフ直後の全景>
<▲写真③ ぼくらの席の右側>

 ぼくらの席はバックスタンドのグランパス寄りだった。3階コンコースから上層スタンドの階段を登り切って上から2列目。ほぼ最上階で、ゴールラインを高さ35mほどから見下ろす位置だった(写真②③)。

 そこは、ネット販売でわずかに残っていた「連続2席」のひとつだった。ふたりで1万3420円。やっとの思いで席にたどりつき、スタジアムを見まわしたとき、正直に思った。あの値段でここなの ? でも結果的には正解だった。

 この日の試合は、グランパスにとって新ホームでの初戦だ。入場者全員に配られた記念チケットには、こんなコピーが書いてあった(写真④)。

 さあ、はじまりだ
 新しい”瑞穂聖地”と共に
 ふたたび歴史を築いていこう

 <写真④ 入場者に配られた記念チケット>

 キックオフの前には派手なショーもあった。初めて訪れるスタジアム、初めての最上階でキックオフを待っていてぼくは思った。この雰囲気は、もうひとつのホーム、豊田スタジアムとはかなり違っているだろう。

前半2失点 後半2ゴール みな眼前

 聖地での初戦…それがグランパスの気負いや硬さにつながったのか、前半24分にFKから先制を許し、35分にはカウンターから追加点を奪われた。その2失点は、ぼくたちのすぐ左斜め下で起きた。素人目にも、グランパスのパス交換の精度は低くみえた。守備もすきだらけに思えた。

 前半が終わるとぼくたちはトイレへと降りていった。後半が始まっても席には戻らず、3階コンコースをゆっくり歩いて周回し、新スタジアムの大きさと空間を味わった。この回遊路は開放的で気持ちよかった。内側(ピッチ側)も外側も壁がないから、視界が開けている(写真⑤)。抜けていく風も心地いい。

 <写真⑤ 3階コンコース / 左には競技場が、右には街路樹が見える>

 歩きながらピッチをチラチラ見ていると、後半になってグランパスの動きがよくなった気はした。でも点にはなかなかつながらない。コンコースをほぼ1周すると、妻は翌日の登山に備えて体を休めるため、先に会場を離れた。

<写真⑥ 20日中日朝刊の浅野選手のシュート写真。写真がもっと縦に長ければ、見出しの「重」付近にぼくは写っていたはず>

 残ったぼくは、自分たちの席の真下近くまで戻った。3階コンコースの手すりにつかまり試合を見つつ、席まで戻るか思案していた。

 決めかねていた後半38分、グランパスの左サイドからのクロスボールが、ペナルティエリアの右サイドへと斜めに飛んできた。そこにはちょうど浅野選手が走り込んできていた。ぼくの位置からは、ほんの少しだけ右の斜め下だ。

 浅野選手はエビ反りながら飛び上がり、反動を使って頭でボールを跳ね返した。そのヘディングシュートはゆるやかな弧を描きながら、相手キーパーの両手のわずか上を越え、ゴール左奥へと吸い込まれていった(写真⑥)。ぼくからは浅野選手、キーパー、ゴールが一直線に並んでいて、ボールの軌道もはっきりと見えた。

 あと1点だ。ぼくは3階コンコースのその場所から動けなくなった。もしかしたらと願い続けた10分後だった。左サイドからのシュートを、ゴール前の木村選手が左足で球の方向を変えてゴール左すみに放り込み、なんと、試合終了寸前に同点に追いついてしまった。

 つまりこの日の4点とも、ぼくの目の斜め下で起き、しっかり見ることができた。グランパスサポーターの歓喜も斜め右に見ることができた。席がもたらした幸運だった。

どよめき 反射 通り抜け

 グランパスが同点に追いついた時のどよめきには、これまでに味わったことがない響きがあった。スタンドを覆う大屋根に反射して、ぼくの頭付近に舞い降りてきた。水平方向の響きは3階コンコースと大屋根の下を通り抜けて、スタジアムの外にある樹木や公園、住宅へと伝わっていった気がした。

 <写真⑦ グランパスが同点に追いついた直後のバックスタンド>

 ナゴヤドームやポートメッセのように、囲われた空間と何かが違う…。ドームやアリーナでは、歓喜やどよめきが幾重にも折り重なり、さらにその響きはすぐに大きな塊(かたまり)になる感じがあった。

大地や空や街との一体感

 しかし瑞穂スタジアムでは、その後のPK戦でグランパスが勝利を決めたときの大歓声も、ドームとは別の感じがした。大地や空や街との一体感、とでも呼べばいいだろうか。どよめきは中央ピッチに吸い込まれ、その真上の大空へも拡散し、3階コンコースを通り抜けていき街とも歓喜を共有している―。サッカー特有の響きかもしれない。

 <写真⑧ PK戦でグランパスが勝利した瞬間 / 大歓声が大地や空とも一体に>

 ゲームが終わると、グランパスのイレブンはスタンドに手を振りながら、反時計回りにトラックを歩み始めた。ぼくも3階コンコースをサポーター席の方へ移動しイレブンの到着を待った。イレブンがスタンド前で整列すると、サポーターたちは大小の旗を揺らし、応援歌を大声で歌い、文字通り歓喜に酔っていた(写真下)。ぼくは写真を撮りながら思った。来てよかった ! これ、妻にも見せたかった―。

 <▲新聖地での初戦を制したゲームのあと、グランパスのイレブンが応援席前に並び、スタンドでは祝福の旗が大きく揺れた=3階コンコースから>

建築 3つのお気に入り

段丘アプローチと波打ち屋根

 <▲写真⑨ 新スタジアムの正面/段丘と波打つ屋根が観客を誘う>

 新スタジアムを建築として味わうのも楽しみだった。ゲームが始まる前に内外を歩いてみて、最初に気に入ったのは、山手グリーンロードからの正面アプローチと外観だった(写真⑨)。大階段と広場が段丘上に配されている。赤のグランパスユニフォームを着たファンたちとともに階段を登ると、正面に近づくにつれて気分が高揚していった。

 <▲写真⑩ 正面前の広場から見たスタジアム/屋根のへこみも観客を誘う>

 3階まで上がると、正面ゲートの前も大きな広場になっていた。大屋根がゆるやかにウェーブしているのがよくわかる。正面入り口付近だけ低くなっていて、観客を「こっちだよ」と誘っているようだ(写真⑩)。次の通説をあらためて実感した。

 スポーツ建築は たくさんの人が集ったとき もっとも見栄えがする

 2つの階段を降りて、すぐ前の山手グリーンロードを横切って歩道橋上から見返すと、外観はかなり違った(写真⑪)。歩道用のブリッジと、反り返りつつ湾曲する大屋根がダイナミズムを生み出している。この道は月に何度か車で走っている。車窓から仰ぎ見る眺めを、これからどう感じるかも楽しみだ。

 <写真⑪ 山手グリーンロードの反対側から見た新スタジアム>

 このスタジアムは、10月にある愛知・名古屋アジア大会の開会式と閉会式の会場になる。もちろん陸上競技もここだ。「大会の顔」としてアジア各国や日本全国に「NAGOYAの高揚感」を伝えてほしい。この日のように、観客がたくさんいるときこそ見栄えがするだろう。市民が会場に詰めかけてこそ―。大会成功の秘訣はやはりそこにありそうだ。

開放的な3階コンコース

 <写真⑤ 3階コンコース / 左には競技場が、右には街路樹が見える>
<写真⑫ 上層スタンドの裏側には木格子が>

 お気に入りの2番目は、すでに書いた3階コンコースだ(写真⑤)。スタジアムの3階部分を楕円状につないでいる。20分もあればスタジアムをゆっくりと一周できた。

<▲断面の模式図=広報なごや4月号から>

 幅は30mくらい。下層スタンドと上層スタンドをつなぐ大動脈になっている。柱や階段、売店、トイレ以外は壁がないから、左右とも視界が開けている。

 内側の地上レベルにある競技場も見えるし、外側に広がる公園や住宅もよく見える。風が吹き抜けていく。イベントがないときに走るのはもちろん、イベント時なら歩くだけでも楽しいだろう。もしかすると新スタジアムの最大の魅力になるかもしれない。

「8」の字のループ

 <写真⑬「8」の字回遊路(MIZUHO-LOOP)=広報なごや4月号から>

 桜で有名な山崎川をはさんで、スタジアムの向かい側には、高さが10mほどの楕円回遊路も新設された。スタジアムの3階コンコースとつなげると「8」の字になる(写真⑬)。

 <▲写真⑭ 8の字ループの交差部分>

 全長はちょうど1km。スタジアムでイベントがない日なら、だれでもジョギングやウォーキングを楽しむことができる。内と外を結び、途中でクロスする8の字―(写真⑭)。こんなジョギングコースはほかにないだろう。

「近い」けど「遠い」

 地下鉄へ向かう帰路で回りを見まわすと、ほとんどの男女が赤のグランパスユニフォームを着ていて、劇的な勝ちの余韻に浸っていた。真後ろを歩いていた男性ふたりが、こんな会話を交わすのが聴こえた。

 「やっぱ、豊スタより近くて、らくちんだね」
 「そうなんだけど、ピッチまで遠すぎない? 」

 この新スタジアムの評価がサッカーファンの間で議論になれば、きっと、この問題にゆきつくだろう。

観客→ピッチの距離

 新しい瑞穂スタジアムは陸上競技場でもあるので、ピッチの外側に9レーンのトラック、さらにその外側に走り幅跳びの助走路と砂場がある。ぼくの席があったバックスタンドの最前列からピッチまで、目算で40m前後あるように見えた(写真⑮)。

 <▲写真⑮ グランパスが勝った直後。観客とピッチの間には助走路とトラックがある>

 豊田スタジアムはサッカー専用だから、観客席とピッチの間にトラックはない。2019年に豊田スタであったラグビーワールドカップを観戦したときの写真(写真⑯)を見返してみた。フィールドの幅はラグビーが70m、サッカーが68mだからほぼ同じ。写真から推測すると、サッカーのときの最前列からピッチまでは15mほどだろうか。選手の息遣いまで聴こえるという迫力は、瑞穂スタジアムとは比較にならないだろう。

 <写真⑯ 豊田スタジアムでのラグビーワールドカップ=2019年9月23日、団野撮影>

観客→スタジアムの距離

 アクセスも大事だ。ぼくの最寄り駅である地下鉄「八事日赤」駅を基点にして、かかる時間と交通費をグーグルマップで検索すると、こんな結果が出た。

 ・瑞穂スタジアムまで
   20分/乗り換えなし/240円
 ・豊田スタジアムまで
   70分/乗り換え数回/760~960円

選択肢が増えた

 どっちがいいとか、優れているという話にしてしまうと、なんだかつまらない気がする。グランパス応援の選択肢が増えた、と思いたい。対戦チームと試合日の自分の予定、チケットがとれそうな席はどのあたりかを勘案して選んでいこう。
 次は、最前列のチケットを買い、豊スタまで行ってみるとするか。