2 小説 物語に浸る

佐伯泰英『空也十番勝負青春篇 1 』

磐音の息子が剣客修行に 孫を見守る気分 

(双葉文庫、2017年1月)

 51巻も続いた居眠り磐音シリーズが、なんと、息子の空也が主人公になって再スタートした。16歳で剣客修行の旅に出るという設定である。

 向かったのは薩摩。口がきけない武者として突入をはかるが、国境を守る男たちに阻まれるところから剣の闘いと試練が始まる。

薩摩藩の実力者との縁や、その孫娘との淡い恋など、磐音シリーズではおなじみの「ありえない出会い」にも助けられていく。

 空也の純真な心とか、馬鹿を超える生真面目さとか、それがもたらす人たらしの特質は、父磐音を超えるものがあるのではないか。父から受け継ぎ幼少時から鍛え上げてきた剣も、もしかしたら父を超える可能性があるかもしれない―。そんな空想をしながら、若者の成長を見守る親感覚で楽しめた。孫を見守る目線に近いかもしれない。

 筆者はいま74歳。いまでも月1作のペースで5つのシリーズを並行して書き続けている。その恐るべきエネルギーと創作力。何と表現すればいいのだろう。ふさわしい言葉がぼくには見つからない。

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