5 映画 銀幕に酔う

邦画『スパイ・ゾルゲ』

昭和10年代の空気 特撮とロケで再現

 (篠田正浩監督、公開2003年6月)

 長い。3時間だ。でも昭和10年代の社会の空気がよくわかった。当時の東京の街並みも追体験できた。特撮の効果である。

<▲ ゾルゲ(イアン・グレン)と尾崎秀実(本木雅弘)=movie waker HPから>

 しかもロケ現場には、桑名の諸戸邸とか、明治村の帝国ホテルがひんぱんに出てきて、あそこで撮ってる、こっちでも撮ってると、別の観点からも楽しめた。

 共産主義の末路がわかっている現代だからテーマにできたというべきかもしれない。ラストに出てくるトロツキー像の破壊の映像とか、ジョン・レノンの『イマジン』の歌は、使いたくなる気持ちや意図はわかるが、象徴的な意味合いが強く出すぎていなかっただろうか。

 篠田監督の意欲とこだわりは痛いほどわかる。尾崎秀実役の本木雅弘がいい。

※写真のみ、2025年3月28日に追加。篠田正浩監督死去の報に接して。