2 小説 物語に浸る

沢木耕太郎『壇』

徹底インタビュー 手抜きなしの生真面目さ

 (文芸春秋、初出は1995年7月)

 この著作は発売時から気になっていた。でも買ってまで読む気にはなれなかった。スポーツや犯罪、事件ならわかる。沢木耕太郎がなぜ壇一雄なのか、なぜ『火宅の人』のフォローなのか。そんな疑問から読むのをためらってきた。

 今回ノンフィクションシリーズの中に再録されて読む気になった。シリーズのタイトルが『男と女』で、最新作『無名』も含まれていることも動機になった。500ページを超える分厚い本だが、千葉・柏の国立がんセンターまで定期健診へ行く必要があり、その車中で集中して読むことができた。

 隙がない。うまい構成。しっかりとしたディテール。心のひだへの気配り。筆者の生真面目さと手を抜かない取材の積み重ねがにじみ出ている。

 筆者は取材のため週に1回、壇夫人の自宅を訪ね、午後いっぱいを使って話を聞いた。それも1年かけて。同じことを3回、繰り返して質問した、という。「ひとりの人物への徹底したインタビュー」にこだわる姿勢と、それをやり遂げるエネルギー。ノンフィクション文章を取材先の一人称で書くにはここまでの忍耐力と、取材相手への踏み込みがいるものなのか。

 これが沢木耕太郎のスタイルであり魅力だとあらためて思い知らされた。物書きとして、かっこよすぎる。それが嫌味ではないところがまた憎い。

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