2 小説 物語に浸る

志水辰夫『男坂』

険しい下り道 あふれる情熱 染みるなあ

 (文春文庫、初刊は2003年12月)

 久しぶりの志水節、シミタツである。期待を大幅に上回る味わいだった。

 何という描写力、小説の作り方の巧さ、ディテールと省略のうまさ…。テーマの立て方もしぶい。男坂、それは険しい下り道。染みるなあ。

 初めて読んだ『背いて故郷』からそうだったけど、シミタツの主人公は初め、老成ともいえそうなほど達観した感がある。

 ところが、実は、あふれ出そうなほどの情熱を中にたぎらせていることが、端々に出てくる。デビューが45歳と遅かったのも一因だろうか。

 写真で見る顔立ちが藤沢周平に似ている気がする。見た目は腺病質な感じだけど、実は心の芯が太いのだろう。

 この作家の本、これで15冊にもなった。

こんな文章も書いてます