5 映画 銀幕に酔う

邦画『砂の器』

切なさと哀感 30年後も色あせず

 (野村芳太郎監督、1974年公開、DVD)

 面白かった。感動した。涙した。これほどの濃度と情感と切なさと哀歓を持ち合わせた作品をほかに観た経験がない。古さを感じず、色あせてもいない。

(▲本棚の原作)

 らい病の父と息子が流浪するシーンが胸に刺さる。バックの音楽と四季の神々しさ。とくに日本海の荒波と父子の様子が象徴的で目にも心にも浸みた。松本清張の原作を読んでいないので推測だけど、映画ならではの象徴的な場面だろう。

 脚本に山田洋次の名がある。ちょい役に渥美清、人の好い警官役に緒形拳が出ている。わき役たちも映画を引き締めている。

 手元の『日本映画名作全史』(現代教養文庫、1975年)を見ると、「異常な成功」とある。公開された1974(昭和49)年に爆発的なヒットをした。

 でもぼくにはこのころ映画館で観た記憶がない。ユーラシア放浪の旅から帰国して復学したばかりで、建築の勉強に専念しようとしていたのか、単に映画代がなかっただけなのか、関心がなかったのか、覚えていない。

 最初の公開から30年も経って観る気になったのは、テレビでリメークされたと新聞で読んだからだった。

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