2 小説 物語に浸る

真保裕一『誘拐の果実』

純真な感性 切れる頭脳 強い正義感

 (集英社文庫、初刊は2002年11月)

 この作家は初期の作品からどんどん舞台や作風を変えてきている。そして今後は「誘拐」ときた。これまでにも数多くのミステリー作家が挑戦してきた犯罪をどう組み立てるのかとワクワクして読み、存分に楽しませてもらった。

 全編に流れる基調音は、昨年5月に読んだ東野圭吾『白夜行』に似たものを感じた。若い純真な感性と切れる頭脳は共通で、真保作品では強い正義感が加わる。

 病院経営と医師のモラル、株価操作、警察の縄張り意識、メディアのセンセーショナリズムとスクラムなど多様な要素が折り重なって展開する。その間を17歳と19歳の若い男女の思いが突進していく。

 難を言えば、最後に出てくる犯人たちの真の狙いがまともすぎて驚きに欠ける。それに長すぎるなあ。読み終わって不要なシーンがかなりあったことがわかるのだけれど。あれって、単行本化の際に削れなかったのかなあ。

▲真保コーナー<2020年9月撮影>

 ぼくの本棚をあらためて眺めてみると『震源』『ホワイトアウト』『朽ちた樹々の枝の下で』など読み始めのころの作品は「出先機関の地味な公務員」が不正や悪に愚直に挑んでいくという形が主軸だった。読むほうも主人公と同じ目線で戦っていくという気分になれた。

 それが『ダイスをころがせ』では地方選挙、『黄金の島』ではベトナムの青少年を描いてびっくりさせてくれた。『奪取』『奇跡の人』でも新境地を切り開いてきた。次はどんな世界に連れ出してくれるのだろう。

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