1 ゴルフ 白球と戯れる

邦画『ありがとう』

還暦ゴルファーの奇跡 被災神戸への感謝

 (万田邦敏監督、2006年11月公開)

 神戸のプロゴルファー古市忠夫さんの半生を描いている。1995年の阪神大震災で自分のカメラ店や家財を失ったのに、得意だったゴルフを生かして還暦寸前にプロテストに合格し、シニフツアーで活躍している実在の人物だ。

<▲原作の2冊>

 原作の平山聖『還暦ルーキー』を2002年に読んだとき、ぼくは50歳だった。本当にこんな奇跡があったのかと驚き、ゴルフは何歳になってもロマンの対象になりうるのだと奮い立ちったのをよく覚えている。

 映画ができたと知った時から観たいと念願しつつ、公開から1年がたった。躊躇したのはたぶん前半に出てくるだろう大震災再現シーンを観るのが嫌だなという思いがあったからだ。でも誘惑には勝てずDVDで観た。

 案の定だった。ぼくの印象では、3分の2は大地震とそれに関するシーンであった。揺れがもうすぐ来ると予測できる時の怖さと、CGによって再現される破壊のリアリティは観ていてやはり辛かった。

 しかしこの映画は、大震災の怖さとむごさを共有し、それに耐えて立ち上がろうとする神戸市民を励まし、その代表である古市さんの挑戦を讃えることにあるだろう。だからリアルな震災シーンは欠かせないし、タイトルも『ありがとう』になったのだろう。

 古市さんの奥さん役の田中好子に存在感があり、演技派の実力を感じた。古市さんを演じた赤井英和が浮いてしまうほど好演している。

 ぼくが期待したゴルフシーンは全体の10分の1もなかった。しかも素人感が強かった。赤井はたしか元プロボクサー。まあしょうがないか。