世界の破局を凝視 たまたま3氏は同年代
(『強欲資本主義』=文春新書、2008年10月/『金融大崩壊』=NHK出版、2008年12月/『グローバル恐慌』=岩波新書、2009年1月)
米国のサブプライムローン問題に端を発したリーマンショックとその後の世界的不況について、いま日本でも指折りの経済評論家3人の新書を立て続けに読んだ。気がつくと3氏とも1952年か1953年の生まれ。1952年生まれのぼくとほとんど同じ年月を過ごしてきた人たちだ。
それぞれに筆者の特質と、著作からぼくの頭に飛び込んできたフレーズをまとめると―。
■神谷秀樹氏(1953年生) 投資銀行の内幕
現役の投資銀行経営者で、ニューヨーク在住と帯にある。ウォールストリートの投資銀行の高給取りについて、その強欲ぶり具体例を交えて書いている。象徴的なのはこのフレーズだ。
- 「きょうの儲けはボクのもの。あすの損は君のもの」
日本では制度的に認められていない「投資銀行」の内幕ものといえるだろう。
■水野和夫氏(1953年生) アナリストの目
ずっとアナリストで生きてきた。分析も筆致もアナリスト的だ。駆け出しが、比較的地味な証券会社であったことが幸いしたのか、怖がらず、悲観的な見通しを出し続けてきたことが今日の脚光となっているとみた。そのうえで大量のデータを駆使し、読み込み、証明する力もある。
- 「ドル基軸通貨の終わり」
- 「需要は5年先を先食い」
■浜矩子氏(1952年生) 比喩のセンス抜群
この人はやはり「言葉の人」だ。中でもたとえ話、比喩のセンスがすごい。サブプライムローンについて浜氏は少し前の新聞寄稿で「寿司屋が何人分もの請求書をツボに入れ、なじみの金持ちにプレミアムをつけて売ったようなもの」と表現したのを読んでうなった。この本ではこんな具合だ。
- 「証券化は飲み屋の福袋作戦」
- 「(原点にあるニクソンショックはいわば) 王様は裸だ」
- 「円は、隠れ基軸通貨」
- 「いまや地球規模の集中治療室」
- 「カネとモノのデカップリング」
- 「恐慌は魔法使いの弟子」
- 「中国はタイタニック号」
あとがきで自ら「言葉が暴走する私を…」と認めるほど言語感覚に富んだ学者だ。ジャーナリスティックでテレビ向きともいえる。その分、数字や統計データはほとんど出てこない。これがエコノミストの本かと思うほどである。
1月15日に名古屋市内で開かれたシンポジウムに参加したときは、すでにこの本は出来上がっていたと思われる。その際には「オバマの強みは弱みにもなりうる」と発言したが、この本にはない。さすがだ。
■1950世代前半世代 「全共闘」の後を行く
この3氏がたまたまとはいえ、ぼくとほぼ同年齢であることに感慨を覚えてしまう。
この世代は、昭和30年代に幼稚園から小学生までを過ごした。戦前、戦後を通じてもっとも、国民の多くが周辺を信じ、明日を信じることができた時代だ。小学から中学はまた、高度成長期でもあった。高校時代には、全共闘世代が社会に歯向かい挫折するのを見た。
社会に出ると、その全共闘世代が現場の先頭を引っ張ったバブル時代を、やや距離を置いて見つめてきた世代でもある。そんな中で育んできた目が「世界の破局」をとらえるのに役立っているのかもしれない。
3冊とも先読みは暗い。共通ポイントは次の2点か。
- 「回復に3-5年はかかる」
- 「本当のグローバル化と無極化が進む」