路地の人いきれと臭い 再現がクイズ直結
(ダニー・ボイル監督、公開2009年4月、MOVIX三好)
最大の特色は、ムンバイのスラム街の生活を忠実かつストレートに再現しているところだ。路地、人いきれ、子どもの活気、洗濯物、臭い、泥、汚物…。あらゆるものがリリカルな映像で描写されていく。
スラム街はインドそのものだとぼくは思ってきた。学生時代の貧乏旅行で1か月近く各地を歩き回った。バンコク特派員時代にも取材出張の際にはスラム街に入り込んだ。あの時の光景と臭いを思い出しながら観た。
映画では、スラム街の細かな再現のひとつひとつがテレビでのクイズにリンクしていくのだが、その過程に不自然さを感じさせない。もちろん監督、脚本、俳優に力がある。ぼくはそれに加えて、インド人の持つ頭脳や記憶力、構成力へのわれわれの「畏敬の念」がそうさせるとみている。
エンディングは駅のプラットフォーム。主人公と乗客らがダンスを始める。これもいかにもインドらしく、笑えて、楽しめた。
ことしのアカデミー賞で作品賞など8部門を総なめした。インドの存在感の高まり、10年、20年先の一層の隆盛を予感させる1作といっていい。