2 小説 物語に浸る

江上剛『腐敗連鎖(上下)』

同郷・同世代の主人公 ともにたどるバブル

(角川文庫、2009年10月)

 主人公のタク、ケン、マサは筆者と同じ兵庫県丹波地方の山村の生まれで、学年はぼくより1年下である。筆者も主人公たちも、京都府舞鶴市生まれのぼくとほぼ同郷、同世代であり、同じ時代の空気を吸ってきたことになる。

 こんな共通項があるからか、上下2冊の長編でありながら、そうだそうだとうなずいたり、へえーそうだったのかと学んだりして読むことができた。

 大きな違いは、ぼくが田舎から”脱出”して選んだ先は「大いなる田舎」の名古屋だったが、筆者と物語の3人は「花の大東京」だったこと。そこが1980年代後半のバブル経済に対する肌感覚の違いに出ている気がする。そのせいか本の題名へのかすかな違和感を最後までぬぐいきれなかった。

 3人の主人公の原点は知恵遅れの弟をめぐる哀しい出来事である。第一部は自伝的青春小説に読め、タイトルには「原罪」を使っている。

 二部のテーマは3人の罪と罰を超えた愛憎劇だと思われ、「腐敗」が「連鎖」しているようには感じられなかった。主人公たちは、あの時代ならではのロマンティシズムを背景に漂わせているように思える。

 腐敗といえば「バブル期の銀行融資の不正事件」。筆者が銀行で経験し、この本でも重要なテーマになっている。3度の改題を重ねていくうちに、編集者も筆者もバブル崩壊に引っ張られすぎたのではないだろうか。

 あとがきを、年代が少し上の早大教授が書いている。筆者の銀行マンから作家にかけての人生だけでなく、高度成長からバブル崩壊までの日本の歩みをこの本にからませながらわかりやすく解説してくれているのがうれしい。

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