2 小説 物語に浸る

藤沢周平 シリーズ第1作『用心棒日月抄』

誇り 矜持 やさしさ しみじみ浸る

 (新潮文庫、初刊は1978年)

 バンコク特派員の時の住宅は先代と同じところを引き継いだ。そこには先輩たちが残していった時代小説がたくさんあった。1年もたつと日本情緒が無性に恋しくなった。藤沢周平や池波正太郎はぼくにとっても、文化的な渇きを活字で癒してくれる代表作家だった。

 あれから10年、少し前に『たそがれ清兵衛』を読んだら面白かったので、ほかの藤沢本も探したら、いちばん版を重ねているのがこの『用心棒-』だった。ただこの本をバンコクで読んだかどうかは記憶が定かではない。

 ただ時代小説の質をはかる勘所みたいなものを、バンコクに置いてあった小説の解説で読んだことを鮮明に覚えている。その解説は、主人公が自分の長屋にある米びつを手でさらって「あと二食分か」とつぶやく場面を取り上げて、こうした生活感あるリアルな描写を書けるかどうかが、その時代小説家の力量を示す、と指摘していた。どの小説の解説かも定かでないのだが、妙によく覚えている。

 さてこの『用心棒-』、しみじみと浸れる世界だった。武士の誇りと矜持、男のやさしさ、青春の勢いが、江戸情緒や赤穂浪士と並行して語られる。

 続編もさっそく買った。寝る前に少しずつ読んでいくのが楽しみだ。

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