2 小説 物語に浸る

藤沢周平『隠し剣』『彫師伊之助』『麦屋町昼下がり』

ぼくの矜持 作中の男たちに導かれ 

 このところ藤沢周平ばかり読んでいる。連続して6冊。うち5冊はシリーズものだった。どの作品も秀逸で、心にしみてきた。

 最初の2冊は隠し剣シリーズの『孤影抄』と『秋風抄』(ともに文春文庫、初刊は1981年)。

 次の3冊は彫師伊之助シリーズの『消えた女』『漆黒の霧の中で』『ささやく河』(いずれも新潮文庫、初刊は1979年、1982年、1985年)。発表は3年ごとだった。

 最後の『麦屋町昼下がり』(文春文庫、初刊は1989年)はこの6冊の中ではもっとも最後に書かれている。

 思えばバンコクに駐在した1998年からの3年、先輩が残してくれた文庫本にたくさんの藤沢作品が含まれていた。南国のけだるい熱気の中で、江戸時代の北国の小藩の暮らしや武士の心をつづる繊細な文章は、ぼくの心の底をゆっくりと洗い流し鎮めてくれ。清涼感にも満ちていた。

 この春からぼくは編集局に別れを告げて畑違いの管理局へ異動になった。新聞製作から施設管理・不動産担当へと仕事が激変した中で、藤沢作品に登場する男たちの矜持(自分の能力を信じて持つ誇り)に強く惹かれている。

 藤沢作品に出てくる主人公たちは、自分の剣や仕事への自負心をベースに、権力には決して頼らない強さと反抗心を備えている。

 ぼくの矜持はどこに見出すべきか。32年の記者・新聞人としての積み重ねへの自信と、かつて学んだ建築を生かしながら社会と新聞社経営に貢献したいという思いは大事にしたい。もっと大事なのは、中日ブランドや組織には頼らないぞという独立意識だろうか。

 それを声高には決して言わない。居丈高にならない。平準な心で与えられた仕事を楽しんでみたい。それは絶対にできる―。藤沢作品に浸り続けてきて、いま、そう思える。

 ありがとう、藤沢さん。

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