とてつもない密度 ページ繰るわくわくの夏
(角川書店、2011年3月)
とてつもなく密度が濃い。取り入れている分野も広い。科学史、薬学、コンピュータ、医学、アフリカ現代史、米国の国防と情報…。いずれも手強い世界なのに、それぞれを深く掘り下げながら絡みつかせていく。
その手腕、力量、エネルギーには恐れ入る。知的な興奮、ページを繰るわくわく感を久しぶりに堪能した。590ページもの長さも気にならなかった。
テーマは「人間の性(さが)」だろう。自分が嫌いだとすぐにいじめたり殺しあったりしてしまう。それは人種や国という大きなレベルでも生じるし、もちろん同じサークルの中の個人であったりもする。
もっとも新鮮に感じたのは、新人類種の誕生だ。現人類よりもはるかに知性の優れた新種が突然変異によってアフリカのピグミーの子供に生まれる、という設定にしびれる。米国と日本をつないでいくプロットにもなっていく。
中盤あたりまで読んできて、かつて同じ種類の興奮を感じた作家がいると感じ出した。フレデリックフォーサイスだ。国際的な任務に就く高い知性の男女の活動が、当初ばらばらに進行していくが、少しずつ関連し、最後は収斂していく…。
うーん、充実の夏だった。