4 評論 時代を考える

藤原正彦『日本人の誇り』

書かずにいられない? レッテル張り恐れぬ潔さ 

 (文春文庫、2011年4月)

 この筆者の評論は、2005年の『国家の品格』以来である。

 前作では「武士道」と「惻隠の情」が日本人美質の根幹部分である、と言い切っていた。今回もその延長にあるが、近現代史についての考え方をかなり断定調に書いている。いわくー

  • 東京裁判の構図「対中、対米の戦争は軍の専行を許し、多くの国民やアジアの人々に多大な悲劇をもたらした」はおかしい。
  • 帝国主義の時代においての日本の行動は、米英ソと比較して一方的に非難されるべきものではなかった。
  • 米国はマッカーサー率いるGHQ戦略の中で「罪意識扶植計画」(War Guilt Information Program)を日本で成功させ、日本人、特にエリートに原罪意識を植えつけることになった。

 満州生まれ、父は新田次郎。本人は数学者で米留学期間も長い。文筆の才と意欲は両親から引き継ぎ、みずからを「おっちょこちょい」と称して自説を展開している。右翼、右寄り、新保守といったレッテル張りも予想されるが、それをまったく気にしない潔さは、ある意味、見事だ。

 ぼくは「はじめに」の最後の一文がお好みだ。

 「偉そうなことを言う私も、本書により、これまで隠しに隠してきた見識の低さが白日の下にさらされるのではないかと恐れています。しかし私には、強く、賢く、やさしい古女房がいます。彼女は私が本書を執筆中、落ち込みそうになるたびに、『大丈夫、あなたの見識や人格が高いとは誰一人思っていませんから』と力強く励ましてくれました」

 ここまで伏線を敷かれたら、だれも論戦なんか仕掛けませんよ、藤原先生。武士道とはちょっと違う気もするけれど。

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