爺さんの武骨さ 少女の初々しさ
(文芸春秋、2011年12月)
この筆者の文章はエッセイやゴルフ体験記も含めていろいろと読んできたが、推理小説まで書くとは意外だった。読んでみると、やはりというべきか、伊集院が描いてきた小説世界の刑事版という印象だ。
これまで読んできた推理小説の名作と比べ、深いナゾ解きがあるわけではない。思わぬトリックが仕掛けられているわけでもない。
しかしどの人物についても、心の底にあるひだに触れている気がする。特に犯人となった老人の、いや筆者と同年と思われる60過ぎ男の、かつて愛した女への思いと未練、在日や被差別部落の人たちへの抑圧が主題だろう。
ぼくがいちばん魅力に感じたのは、東北のしゃきっとした爺さんの武骨さと、その爺さんが田んぼをつくるのを手伝って育った少女の初々しさだった。まさにそれは伊集院ならではのひと模様だろう。
若い刑事ふたりが交替に出てくる。このふたりの違いがぼくにはよくわからず、筋立ての上でも、どうしても必要な人物には思えなかった。