2 小説 物語に浸る

東直己『探偵はバーにいる』

酒場舞台の私立探偵劇 ススキノならでは

 (ハヤカワ文庫、初刊は1992年5月)

 映画になったのでこのタイトルを知ったが、なんと―

  • 単行本の発売は1992年。20年も前のバブル崩壊のさなかである。
  • この文庫だけで59刷にも達している。
  • 解説によると、映画化は筆者の第2作『バーにかかってきた電話』がもとらしい。タイトルだけ第1作を採用して「バー」を「BAR」にしたそうだ。

 この作品の面白さの根源は、主人公が並外れた酒飲みであることだ。朝から飲み屋で「サンドイッチにウィスキーダブル」を注文するのだから。

 根源の2つ目は、ススキノの描写が生き生きしていることだ。筆者はこの街で生まれ、大学も地元の北大。中退して定職にはつかずススキノで暮らし続けている。その蓄積と愛着と自信が文章にあふれている。

 ■バブルのにおい 錦三では成り立たない

 根源の3つ目は、あの時代ならではのバブルの匂い。酒場こそバブルには敏感だったはずで、30代後半だったぼくにも沁み込むようにわかる。

 このような酒場を舞台にした探偵ものは、シンジュクかハカタかススキノしか成り立たないだろう。栄のキンサンでは絶対に無理だ。歴史が浅すぎるし、酒飲み探偵を抱え込める文化も懐もない。うらやましい。

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