2 小説 物語に浸る

佐伯泰英『居眠り磐音 4~42 』

流れに不安なし 心地よさが深い眠り 

(双葉文庫、2003年2月~2013年1月)

 ついに発売済み42巻を読み終えた。刊行ペースに追いついた。1~3巻を読んだのが昨年11月だから、半年かけて37巻を読み継いだことになる。

 くせになったというべきか、はまったとでもいえばいいのか。いや違う。読んでいて物語の流れに不安がない安心感というのがいいだろう。

 もちろんこの筋書きはないだろうとか、これは作り話がすぎる、と思う場面もあったが、ここまで浸ってしまえば何でも許せてしまう。

 剣の腕さえたてば、すべて解決の道があった時代のおおらかさよ。その後は一貫して、個人の武の力ではいかんともできない世の中に変わってきた。

 とにかく毎晩、布団に入ってこの本を読み始めるのが待ち遠しかった。どうにも瞼が重くなって眠りに落ちても、眠りが深かった。変な夢を見ない。それが最大の魅力だったのかもしれない。

岩波別荘を筆者が購入 「資金は印税」 

 途中でびっくりしたことがあった。

 41巻のあとがきで筆者が、熱海の別荘「惜檪荘(せきれきそう)」に触れている。もとは岩波書店創業者であった岩波茂雄が昭和16年に建てた別荘。設計は近代数寄屋建築の名手である吉田五十八で、志賀直哉や高村光太郎らがここに泊まり原稿を書いた。売却されそうだったのを、近くに仕事場を持つ筆者が買い取り4年かけて修復した。資金は著作の印税が頼り、だという。

格好いいのは磐音だけではなかった!

 実は41巻を読む少し前、この別荘改修の経過をBS朝日が特番で流した。事前に妻が新聞のテレビ番組案内を知り「買ったのは『居眠り磐音』の作家? そういえば…、もしかして…」とぼくに教えてくれた。一緒に番組を観て「やるじゃない、佐伯さん」とうなった経過があった。

 あとがきで筆者は「これで私の無鉄砲な『道楽』は幕を閉じた」「出版界と建築界にそれなりの意味を持つ修復を私自身は楽しんだ」と書いている。ぼくも少しは貢献できただろうか。うーん、格好いいのは、磐音だけではなかったのだ。

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