3 随筆 個性に触れる

曽野綾子『人間にとって成熟とは何か』

「昭和ひと桁」の強さ 品のいいおばあさん

 (幻冬舎新書、2013年7月)

 50万部のベストセラーだそうだ。『成熟とは何か』というタイトルに強い関心もある。なにせ、ぼくがいまこの文章を書いている雑記ノートの題名が『爛熟は我に在り』なのだから、読まないわけにはいかない。

 筆者の類書『老いの才覚』をかつて読んだ時に感じたのと同じ印象を持った。生年は1931(昭和6)年だから「昭和ひと桁世代」の真ん中。終戦時に10代だったこの世代ゆえの無類の精神的強さを持っていると思う。

 もっとも多感な時期が、戦前から戦後にかけてだった。母国のどん底、貧困と復旧を見て成人になっている。その体験や蓄積からすると、AKB48に代表されるいまのタレント文化や、個人主義を前に出す民主主義や、アフリカと比べた格差論などはみな底が浅く「未成熟」に映るのだろう。

 筆者は思っていることを黙ってはいられない性分とみる。踏み込んだ持論を展開して論議を呼ぶことも多い。「保守の論客」というレッテルを張られることもある。この本でもそのあたりの印象は変わっていない。

 50万部も売れているのは、批判を気にせずに自説を言い切れる歯切れの良さと、具体論のわかりやすさが大きいと思う。さらに、老後を控えた団塊世代からすると「ひと回り半ほど上の知的なおばさん」が「成熟」を語ってくれている。しかも作家だから文章はこなれていて、主張は明快に伝わってくる。

 筆者の風貌も大きな要素かもしれない。美形の上品さを感じる。朝日新聞の書評にこんな表現があった。「陽だまりの縁側で、品のいいおばあさんの繰り言を聞いている気分」。うまいこと表現するなあ。

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