5 映画 銀幕に酔う

邦画『舟を編む』

映画から遠い世界 豊かな物語に 

 (石井裕也監督、公開2013年4月、DVD)

 期待以上だった。何といっても全編に流れる真面目さがいとしい。活字の世界の豊かさをあらためて感じ取ることができて、新聞人としてもうれしい。デジタル世界への直線的な反感をこめていないところもまたいい。

(▲ この世界が映画に…)

 辞書編纂という仕事の中身は初めて知った。半端ない労働集約であり、だから利益とはほど遠い。それにアクションが少なく、映画にはなじみにくい仕事だろう。それがきっちりと映画化されていた。すばらしい作品だ。キネ旬の2013年ランキング2位はつなずける。

 松田龍平の純な演技が際立っている。現代社会とはあわない変人で、とぼけているけれど、どこか今の時代に通じる芯をぼくは感じた。

 オダギリジョーもいい味を出している。ぼくの好きな女優さん、伊佐山ひろ子は、独特の存在感をもっと見たかったというのは個人的な好みか。

 「ダサイ」や「恋」の語釈がスーパーで出てくるところも面白かった。原作にはもっと出ているのかもしれないが、辞書でしか目にすることがないような語句もキーワードや語釈にほしい気もした。

 三浦しおん原作の映画は、2年前に観た『まほろ駅前多田便利軒』に続いて2本目。こちらも松田龍平が主役だった。便利屋から辞書編纂へ。地味な世界を舞台にこれだけ豊かな物語にできる力と感性は、常識人のぼくには想像もできない。だからこそ突き抜けた面白さを作品に感じられるのだろう。

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