一方的に恐れるものではないらしい
(新潮新書、2004年4月)
大ベストセラー『バカの壁』に続くシリーズ第2弾。発刊から10年でこちらも37刷も出ている。前から気になっていたが、中身は手強いのではと避けていた。でも60歳を過ぎて「バカ」より「死」が気になってきた。
手強そうという予感は的中した。『バカの壁』でも感じたように、タイトルのシンプルさほど中身は単純ではない。死だから、より深い。
解剖学者だから死とは長く付き合ってきた。それゆえの冷徹な目が光る。その一方で、歴史的、文学的なやわらかい視点も随所に入ってくる。記憶に残るフレーズはいくつかあるが、みな断片的だ。
- 死はだれにでも必ず訪れるが、いつくるかはだれにもわからない
- 死にも一人称、二人称、三人称がある
- 死は考えても無駄だ
この本から、教訓めいたわかりやすいメッセージを書き出すことは、ぼくにはできない。死にまつわるエッセイ集ととるべきだろう。
ただ読み終えて、何か安気な気分になれた。筆者に誘われるまま、頭をできるだけ柔らかにしながら死を考えてみる。こんな考え方もあるし、あんな考え方もある…。死は一方的に恐れるものでもないらしいと思えてくる。
ひょうひょうとして達観した感じの年長のお坊さんが身近にいたとする。その方のお経や説教を聞くと、こんな風に感じるのではないだろうか。