かっこよすぎサンチャゴ 詩的なカタルシス
(光文社文庫、小川高義訳、初刊は1952年)
最初に読んだのは学生時代だった。今回の読み直しのきっかけは新聞記事だった。高齢化社会の老人の生き方に関しこの本が出てきた。元気な老人の意思の力を示す事例として紹介されていた。いま62歳。再読したくなった。
ぼくの記憶では、老人は少年と一緒に大西洋へ漁に出て、巨大なカジキと格闘する物語だった。カジキには最後に逃げられたけど、ふたりで全力を尽くした、燃え尽きた、という終わり方だと思ってきた。
ところがどっこい、少年は最初と最後にしか出てこない。舞台はキューバのハバナ沖。老人はひとりでカジキを捕らえた。カジキは逃げられたのではなく、ハバナに戻る途中で鮫に肉を食いちぎられてしまう。
さらに、漁港に戻った船にはカジキの頭と背と尻尾の骨だけがくくりつけられている。漁民たちが「こんなでかいのは見たことがない」と大騒ぎ。少年が老人の小屋へ行くと、老人は”新聞紙ベッド”で眠りこけていた…。
なんという詩的なカタルシス! 老人の生きざまの潔さ、職人魂…。かっこよすぎるぜ、サンチャゴ。ヘミングウェイの精悍なひげ面がダブって見える。
訳者の解説やあとがきも詳しくて、うれしい。ヘミングウェイ自身の人生と旅もなんと魅惑的なことか。この作品は1951年、52歳の時に書き、ノーベル賞を獲得するきっかけにもなったとか。それに5回も結婚している!