2 小説 物語に浸る

葉室麟『霖雨』

義に厚く愚直な兄弟 清冽な格闘

(PHP文芸文庫、初刊は2012年5月)

 この作家の作品は直木賞の『蜩ノ記』から数えて5作目となる。帯にあるように、いずれも主人公の生き方は「凜」の一文字で表せる。

 舞台も同じ九州の日田。江戸時代は天領だった。ここに私塾を開いている広瀬淡窓(たんそう)という人物は、藩の嫌がらせにあっても自らの教育方針を貫く。弟の久兵衛も商人でありながら、藩の財政改革をまかされる。

 江戸末期で、長州や薩摩の藩士が動き出す少し前になる。飢饉に苦しむ人々を見て政治を正そうとする大塩平八郎の乱をからませながら、豊後での兄弟の清冽な格闘を描いていく。

 どちらも武士ではない。しかし義に熱く、自己抑制がきく。愚直である。人を思いやれる。決断力もある。きのう死亡が伝えられた高倉健さんと同じだ。あこがれ尊敬し近づきたいと思う。でも実際にそうできる自信はない。

 当時の「学問」の実際の中身はよく知らなかった。ほんどが中国の古典を学ぶことだったし、漢文で詩を作ることもあった―。そういえば寺子屋で「師、のたまわく」と朗読するシーンを思い出す。中国を上に見てしまう明治・大正世代の原点はあのあたりにあるのだろうか。

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