2 小説 物語に浸る

浅田次郎『一路』

ひたむきで「一所懸命」 若侍がまぶしい

 (中公文庫、初刊2013年2月)

 先月読んだばかりの『終わらざる夏』(2010年7月)が太平洋戦争の末なら、こちらは江戸時代の末が舞台。黒船が来て尊王攘夷気運が水戸や長州の藩士に渦巻き始めたころに、こんな藩と殿様と若者がいたという設定である。

 主人公の小野寺一路という若者がまぶしい。檀ふみが解説で冒頭に掲げたように「一所懸命」なのだ。江戸生まれで文武ともすぐれた若侍だが、父が急死したため国元に戻って急遽、参勤交代のリーダー御供頭をつとめることに―。

 頼りは先々代が書いたマニュアル。従者たちの心をつかんだのは、「原点に戻った行軍」という哲学と、ただひたむきに努力する姿勢だった。

 お殿様のキャラ設定も楽しい。うつけを装いつつ、実は大変な頭脳と判断力と運動力の持ち主であることが、少しずつ分かってくる仕掛けだ。

 そのほかの登場人物たちも浅田次郎ワールドそのもの。とくに二匹の馬の擬人的な語り合いは、腹の底から笑える。

 『終わらざる夏』も『一路』も、それぞれの時代の中心的な出来事ではない。しかし『終わらざる夏』は戦争のあほらしさと兵士の真情を、『一路』は参勤交代システムのばかばかしさと侍の一所懸命ぶりを描いて、それぞれの時代の本質をついている。それが浅田次郎の小説の作法なのだろう。だからさびつかない。

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