2 小説 物語に浸る

ピエール・ルメートル『悲しみのイレーヌ』

知力と突破力の仏警部 溺愛の妻がいて 

 (文春文庫、2015年10月)

 ベストセラーになっていた『その女アレックス』を読んだのが1月だった。あまりの切れの良さ、凄み、展開のリズムにまいった感があった。

 実は主人公ヴェルーベン警部が初登場するのはこの『悲しみのイレーヌ』だった。日本では第2作『その女アレックス』がまず翻訳されて話題となり、ぼくもそれを読んだ。第1作の翻訳文庫が今回やっと出たというわけだ。

 そのヴェルーベン警部は身長145cmと短躯。著名な画家を母に持ち、知力と突破力が抜群の40男である。妻イレーヌを溺愛している。そうした横顔は、この第1作で初めて詳しく知ることになった。

 ぼくが全作品を読んだロバートB・パーカー創出の私立探偵スペンサーは大変なマッチョだが、パートナー女性を愛しているところは同じである。

 ストーリーは凝りに凝っている。残虐な描写も多く、ついていくのが大変なところもあった。筋を読んだり、予測することも難しい。最愛の妻イレーヌが殺されてしまうなんて、考えもしなかった。しかしそんな”障害”をはるかに上回る、濃密なミステリー小説世界が眼前に拡がっていた。

 筆者ルメートルは55歳でこの小説を書き、作家デビューしたという。出版が2006年だから、生まれ年は1951年。ぼくのひとつ上ではないか。わが身に照らすと距離の遠さを思うばかりだ。もちろん比べる意味もないけれど。

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