2 小説 物語に浸る

佐伯泰英『居眠り磐音 50・51 (完結)』

ついに完結 やっと読了 最長不倒

(双葉文庫、2016年1月)

(▲左が50巻、右が51巻)

 ついにというべきか、やっとというべきか。今回の2冊でシリーズは完結した。マンネリを感じつつ惰性で読み続けた時もあったし、盆暮れに生まれ故郷に帰省する感覚もあった。

 思い返せば、きっかけは2012年に観たNHKBSのテレビ時代劇『陽炎ノ辻』だった。磐音シリーズ第1作の題名そのものだ。坂崎磐音の山本耕史、おこんの中越典子がはまり役だった。

 つられて原作を読み始めたら、もう止まらなくなった。2013年6月には、その時点で既刊だった42巻までを読み終えた。その後は、お盆と正月に新刊が出るたびに手にしてきた。

異例のロングラン 5つの秘訣

 50巻『竹屋の渡』には帯に「2000万部突破」ともある。ぼくなりに面白さの秘訣を列挙してみた。つまり、このシリーズ特有の世界だけでなく、剣客ものの魅力、時代小説の良さがすべてミックスしている。

(▲本棚の磐音コーナー)
  1. 「出発→変転→帰還」という黄金のサイクル  本日付けの日経新聞「文化往来」欄に、洋の東西を問わず英雄物語には「出立→イニシエーション(通過儀礼)→帰還」という共通の構造がある、との記事があった。神話学の古典『千の顔を持つ英雄』が指摘していて、ジョージ・ルーカス監督が「この本がなければ『スターウォーズ』の物語を書けなかった」と述懐しているという。磐音シリーズは関前藩での不幸な内乱に遭遇して「出立」し、江戸での長屋暮らしから始めて剣術家への道と田沼父子との闘いという「通過儀礼」を経て、道場復活と藩への「帰還」となる―。完璧である。
  2. 主人公は「剣術師」 現代にはない人生と職業が映し出す潔さ、おとこ気。剣の力では絶対にだれにも負けないという安心感も大きい。
  3. 真面目さときっぷの良さ  主人公の磐音は剣が強いだけでなく、生き方もまっすぐで真面目手で王道を行く。心憎い気配りもできる。妻になるおこんは江戸下町育ちのきっぷの良さと度胸に、女性らしい賢さも備えている。
  4. とりまく人物も多彩  長屋や商家の街衆、関前藩や他藩の武士たち、流れ者の男たち…。いずれの人物も造形がくっきりしていて、群像のもたらす活気がある。
  5. 江戸時代の文化の豊かさと安定感、それへの郷愁

 筆者はこの磐音シリーズを15年にわたり書き続けた。その超人的な気力もたたえるべきだろう。しかも書き下ろしシリーズをほかにいくつも抱えながらであったのだ。その仕事量は、巻末の著作リストを見ているだけでめまいがしてくるほどだ。読者として言えるのは一言だけ。ありがとう、佐伯さん。

 これまでの最長は『スペンサー』34冊

 この51巻はぼくの読書の最長不倒シリーズともなった。以下は、これまで読んだシリーズのリストである。51巻はぼくには別格の長さだ。

 3人の剣客 ぼくのヒーローたち

 このうち時代小説の「剣客」は以下の3人がぼくのヒーローだ。

  • 『居眠り磐音』の坂崎磐音
  • 『剣客商売』の秋山小兵衛
  • 『用心棒日月抄』の青江又八郎

 みな魅力ある男であり生き様である。小説上の架空の剣士なのに、ぼくの中では3人とも実在の男のように凛としてたたずみ、剣を振るっている。

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