2 小説 物語に浸る

本谷有希子『異類婚姻譚』

手触りふしぎ 夫婦のリアルがファンタジックに

 (講談社、2016年1月)

 ことし前半の芥川賞である。筆者は30代後半の女性。石川県出身なのと愛らしい感じの写真が新聞記事で印象に残っていた。同じ石川出身の妻がすぐに買って読んだらしい。本棚にあったのを見つけてぼくも読んだ。

 作者の分身と思わせる専業主婦の妻と「旦那」と称する夫の話である。

 でも普通の夫婦にありそうな日常ではない。旦那は結婚後、帰宅後はハイボール片手にバラエティ番組を3時間観るのが真の自分の姿だと宣言。それに飽きると天ぷら揚げに熱中するようになり、会社も休みがちになる。

 そのあたりまではまだ、へんな夫だなあという水準だったが、最後に山芍薬(やましゃくやく)に「変身」するところで、えー、なにこれ、という戸惑いに包まれた。そこから終わりまでは「譚」である。

 不思議な手触りだ。リアルでありながら最後はファンタジック…。タイトルの通り、もともと他人の男と女が夫婦となって暮らすことで生じる心理的、身体的な変化がテーマなのだろう。

 ほとんどの夫婦はどんな形であれ、ともに暮らすようになった相手に、似たところを感じたりする半面、違和感をもったりもしているはずだ。顔が似てくるというのもわかる。どんな思いで離婚したり死別するかも、千差万別にちがいない。

 ぼくの読後感ではこの作品は、はじめの方は超リアルでありながら、最後はファンタジックに終わる。いろんな夫婦が抱いているであろう、いろんな違和感に対して、それはそれでいいんじゃないですかと居場所を与えてくれているような気がする。