5 映画 銀幕に酔う

米映画『アメリカン・スパイナー』

戦闘と兵士の苦闘 実像の再現に執念 

 (クリント・イーストウッド監督、日本公開2016年2月)

 実在したスパイナーの自伝がもとだから、戦闘シーンがとにかくリアルで驚いた。DVD付録の舞台裏紹介によれば、モロッコのラバトでもロケを実施し、モロッコ軍も協力してくれたそうだ。米国の敵側スパイナーが五輪の元射撃選手というシーンにも凄みを感じた。

 公開前後の映画評などから「反戦映画」だと勝手に想像していた。たしかに戦場での悲惨な体験によって心を病む兵士が出てくる。主人公のスパイナーもそのひとりだ。

 しかし彼が参加した戦争を全否定しているというわけではなく、レジェンドとなったスパイナーの実像の紹介という側面の方が強いと感じた。

 DVD付録ではまた、この映画ができるまでを関係者が語っていて、まったく別の次元で面白かった。

 最初に脚本ができた時には、元スパイナーの主人公が実際に射殺される事件が発生し、残された妻の話も加えて脚本を書き直したという。監督もいろいろ曲折を経てイーストウッドに決まったらしい。

 ■超人的な活躍 生粋の映画人

 それにしても、イーストウッドの活躍ぶりはなんて言えばいいのだろう。ぼくがこの10数年で観た作品だけでも、監督兼主役が『ミリオンダラー・ベイビー』『グラン・トリノ』、監督作品が『父親たちの星条旗』『硫黄島からの手紙』『ジャージーボーイズ』『チェンジリング』、出演作が『人生の特等席』と多岐にわたっている。

 この人の映画は、反戦とか戦争賛美とかいうひとつの尺度を当てはめようとしたり、ひとつの作品だけで判断したりするのは意味がないように思える。戦争を扱った映画も、戦場でどんな戦闘が行われ、兵士が何を思い、何が残ったかをきちんと伝えたいという姿勢を感じる。生粋の映画人なのだ。

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