2 小説 物語に浸る

弘兼憲史劇画『黄昏流星群』

団塊世代へ応援歌 比類なき高みに

(弘兼憲史、1995年から雑誌連載中)

 これも愛知県がんセンターに入院中に、ライブラリーから借りて初期のころの作品を一気に読んだ。こんな時でもないとまとめて読むことはなかっただろう。

 予想と期待を見事に裏切る水準の高さだった。作者はぼくより少し上の団塊の世代だ。かれらが感じる「50代の想い」がこれだったのだ。

 筋もプロットも人物造形も、もちろん作画も、さすがである。池波正太郎や藤沢周平の短編の世界に匹敵すると思う。タイトルも出色である。

 傑作選というだけあって、ひとつひとつが高い水準を保ちつつ、独立した世界で完結している。人の生き方に迫る劇画の中では、比類なき世界を築いているだろう。

 中でもぼくのお気に入りは『星のレストラン』だ。フランス料理についてのうんちくと、かつての伝説のシェフの人生をかけあわせている。そこに才能ある若いシェフとその恋人がからむ。この余韻、いいなあ。

 作者はいま70歳前後だろうか。この作品の後も60代、70代の男の生き方について、劇画だけでなくエッセイでも膨大な量の発言と提案を続けている。どれだけ多くの団塊世代がこの人に励まされてきただろう。

 代表作の『島耕作』も含めて、大学を出て松下電機でサラリーマンを経験したことが生きている、といった話で分かった気になれる作品ではない。創作や表現への尽きるこのたない意欲と熱と継続力…。これを才能と呼ぶのだろう、とぼくはおもう。

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