2 小説 物語に浸る

佐伯泰英『空也青春篇 5 (完結)』『奈緒と磐音』

本編の「後」と「前」 最後のスピンオフか

 (双葉文庫、2018年)

 居眠り磐音シリーズを読むのは、これで終わりかもしれない。ともにスピンオフ的な作品。『空也青春篇』は「本編その後」で、息子の武者修行の完結編。『奈緒と磐音』は「本編の前」で、後の太夫・奈緒と磐音の青春時代の物語である。

 惰性だと思いつつ、発売されるとすぐ買ってしまった。読み始めるといつもの佐伯節の調子に引きずられる形で一気に読んでしまった。

 ただ「後」と「前」を続けて読んだので中身を比べてしまう。どちらも、青春時代を描いているのだが、ぼくには、磐音の青春時代を描いた「前」の方が、華も深みも重みもより強く感じた。

 第1巻『陽炎の辻』の出来の良さと重要性

 というのも、この『奈緒と磐音』は、シリーズ第1巻の『陽炎が辻』がいかに重要であったかを確認する作品になっているということだ。

 第1巻は、磐音が藩の権力争いに巻き込まれて東京暮らしを始めるまでを描いている。そこには江戸の庶民の暮らしと豪商、おこん、剣術、豊後藩、道場、江戸幕府など、51巻ものシリーズの後の展開に不可欠な要素がほとんど織り込まれていて、重層的につらなっている。

 『奈緒と磐音』も佐伯氏が書き足したのだから当然とはいえ、磐音という剣客の魅力の原点を読むことで、第1巻の重みをあらためて知ることになった。

 もっとも空也の剣術修行の旅シリーズも、熱心なファンなら「さすが磐音の息子」と納得できる場面が多くて、そうした喜びも存分に楽しめた。はらはらどきどきできる剣術場面もたくさんあった。時間・地理・人物における重層的つながりといった味付けにはとぼしいが、そのぶん若者の活劇物語になっているから十分におつりがきた。

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