2 小説 物語に浸る

浅田次郎『獅子吼』

想像力と筆力 その継続にも敬服

(文春文庫、初刊は2016年)

 浅田次郎の短編集である。タイトルは「ししく」と呼ぶ、ライオンの気持ちが一人称で出てくる冒頭の一作がそのまま本のタイトルになっている。ほかの5篇は設定も時代も大きく違う。

 作品に共通しているのは、人間の情けと情感やどうしようもなさ、組織(特に軍隊)が内在する官僚性や建前主義、前例主義の冷たさと哀しさだろうか。

 吉川晃司が文庫版のあとがきで書いているのに同感する。ぼくも「流離人(さすりびと)」がいちばん印象に残った。主人公の男は、終戦間際の満州で転属先に行かずにふらふらと時間をつぶすという設定だ。浅田文学らしい骨太な、体で示す反戦であり、意地である。

 それにしても、この作家の想像力と筆力には恐れ入るばかりだ。1学年上で禿げ上がった頭もそっくりなのに、作品を読むたびにぼくはたまげてしまう。定期的に書き続けることができて、しかも、つむぎだす作品の質はまったく落ちていないのだ。

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