常套句こっぱみじん 脳と良識に刺さる
(講談社、2018年)
このまえ読んだ『終わった人』よりもはるかにエッジが効いている。主人公のセリフや心の中の露骨なつぶやきが、ぼくの66歳の頭と良識に刺さってくる。
しかも、夫の岩造の遺書と不倫が明らかになってからの展開は、予想もしないものだった。
「セルフネグレクト」という言葉が、夫が死んで生きる意味や張り合いをなくした主人公の状況を示す用語として出てきた。初めて知った。もうひとつ「死後離婚」。この言葉と手続きも初めて知った。さすがである。
この本のテーマのひとつはやはり、年が寄れば寄るほど、オシャレに気を配らないと中身まで一緒に退化してしまうよ、というわかりやすいメッセージなのだろう。
「年寄りは楽がいちばん」とか「ナチュラル志向」とか「中身が大事」-。そんな年寄りの常とう句を、筆者が小説の中でくそみそにやっつけているのが、最後は小気味よかった。本のタイトルも、カバーの絵も、実にうまい。