2 小説 物語に浸る

葉室麟『春雷』

冷酷非情の裏に哀しさ

(祥伝社、初刊は2015年)

 羽根藩シリーズの第3弾である。『蜩ノ記』『潮鳴り』と読んできて、その勢いでこれも手にして一気に読んだ。

 主人公の多聞隼人は今まで読んだことがない人物設定である。鬼と呼ばれ、百姓を痛めつけて年貢を取り立てる。冷酷非情の悪代官という感じなのだ。

 しかしその裏には哀しさがどっぷりと含まれている、と作者は示唆してくる。とはいっても、藩主がかつて名君をめざして馬で城内入りしようとした際に、馬が暴れて隼人の娘が死亡し、妻も流産したのがきっかけというのは、ちょっと無理を感じた。

 さらに隼人は藩主が名君であることを確かめるためにわざと鬼になって、最後は切腹覚悟で一揆を治め、ひとりで剣をふるって死亡するというラストも乱暴だと思う。

 そのあたり『潮鳴り』の方が生き方も人物設定もぼくにはしっくりきた。さて第4弾はどうだろうか。女性がきれいに気立てよく書かれるのは同じだろうか。

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