鬼とやさしさ つながり弱い第4弾
(祥伝社、初刊は2016年5月)
羽根(うね)藩シリーズの第4弾。ぼくには芯の定まらない展開に読めてしまい、不満が残る、残念な続編であった。
第3弾「春雷」の多聞隼人の妻だった楓や、大坂からやってきた小平太が軸になる。隼人が見せた「鬼」と「やさしさ」という裏表の特質のつながり具合が納得できなかったためだろうか、残された男と女の心情、特に隼人をしのんで団結する際のストーリーが弱い気がする。
欅屋敷から楓たちを追い出そうとする藩の家老や、その手下たちも徐々に、ほんとうに排除すべなのは元藩主とさとっていくのだが、幕府の方針なるものを絶対視しているので、どうしてそんなに幕府ありきなの? と思ってしまう。
楓とおりうの人格や存在は絶対善であることも、物語を絵空事の世界に見えやすくしてしまい、話が苦しい。
大好きな作家なのに、こんなにも辛口になるのは、藤沢周平や池波正太郎の完成度を知ってしまっているからだろう。佐伯泰英の磐音シリーズも葉室作品と似た水準かもしれないが、羽根藩シリーズと違ってスケールが大きく巻数もけた違いに多い。磐音シリーズはまた、登場するひとりひとりのストーリーが独立していて陰影に富み、ひとりひとりに割いている文章の量も多い。別の世界の作品なのだろう。