2 小説 物語に浸る

葉室麟『螢草』

一途さにユーモアもまぶして

(双葉文庫、初刊は2012年)

 いやあ、面白かった。本屋さんでこの本を見つけた時、帯の表側に「BS時代劇  7月26日~」とあった。NHKで放映中の『大富豪同心』の次だとピンときて、先に原作を読もうと買った。大正解である。

 葉室さん (すでに故人であり、ひとつ上の元新聞記者だが、あえてこう呼びたい ) の小説に、こんなにネアカで、ユーモアにあふれているのもあったっけ―。解説によると、双葉社が出版する葉室作品は、こうしたエンタメ傾向が強いらしい。

 主人公である奈々の一途さはもとより、取り巻きの人々がみんなみんな魅力的だ。好きにならずにいられない。そのぶん、悪役はとことん根性悪に描かれる。

 藤沢周平だと、そのあたりの筆かげんは、もっとグレーで、個性が入り乱れていて、各人の心の奥行きも深い気がする。もちろん葉室さんにも、その作品群にも、いろんな顔があり、引き出しがある。プロはプロの術として、たくみに使い分けているのだろう。

 読みながら、少し前に熱中した『みをつくし料理帖』の小説とBSテレビを思い出していた。この『螢草』も、週末に始まるBSテレビ放映が楽しみになってきた。活字から映像へ―。このふたつの表現手段の飛躍には、活字の愉しみとは別次元のわくわくが、作り手の人たちにもあるのだろう。

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