2 小説 物語に浸る

葉室麟『川あかり』『銀漢の賦』『陽炎の門』

充実の夏 一気に3冊 底流に矜持

(収蔵文庫と初刊年は、双葉・2011年/文春・2007年/講談社・2013年)

  たてつづけに葉室麟の世界に3冊も浸り、中身の詰まった夏のひとときを過ごすことができた。執筆年も舞台も構成も違うのに、実直さと矜持を大事にしたいという筆者の思いを底流に感じた。

 『川あかり』は読み直しだったけど、またまた楽しめた。臆病者といわれる七十郎が実は、武士本来が持つべき誇りを軸に逃げない男であり、その真摯な姿勢が周囲のわけあり同宿者を巻き込んでいく。
 はじめはいろんな糸がからみついているのだが、読み進むにつれてあんばいよく糸がほぐれ、ひとつにつながっていく。それぞれの出来事の裏にあった歴史や真実が徐々に立ち現れてくるのだ。葉室作品の中ではもっとも、主人公や舞台が躍動し、ぼくをわくわくはらはらさせてくれた物語だ。

 『銀漢の賦』は、男たちの友情と矜持の物語である。主人公源五の「武骨さ」は、葉室作品の登場人物に共通する志向性だが、本作でもいかんなくその魅力と力を味わうことができた。
  源五の武骨さは、決してひとには言わず、おのれの中に秘めたままの矜持であることが、徐々にわかってくる。しぶいなあ。松本清張賞を得たのも納得できる。

 『陽炎の門』は、佐伯泰英の居眠り磐音シリーズ第一作『 陽炎の辻』をほうふつとさせる。葉室麟が意識していたかどうかはそれほど問題ではないだろう。主人公は「友を見捨てて出世した卑怯者」なのか、まともな理由があったのかがテーマだ。
  冒頭で主人公が執政に上り詰めて自己満足したかのようなシーンが出てくる。しかし彼は、その自己満足の中身と正当性をもみずから追求していく。読みながらその姿勢に同調している自分を知って、ほっともしたのだった。

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