2 小説 物語に浸る

葉室麟『孤篷のひと』

江戸のダ・ビンチ 遠州の伝説と実像

 (角川文庫、初刊本は2016年9月)

 あの小堀遠州の生涯を描いた作品と知って、またまた葉室作品に浸った。 2016年の初刊なのに早くも文庫化。葉室氏は2017年に亡くなっており、作品としては最後のほうになるのだろう。

 小堀遠州というと、ぼくが建築学生時代だった50年も前から、桂離宮に代表される日本庭園の代表的な作庭者という「ひとつ覚え」のまま今日にいたっている。しかしこの本によると遠州は、もともとは武士であり、官僚でありながら、茶人であり、建築家であり、作庭師でもあった。まるで「江戸時代のダ・ビンチ」である。

 しかも桂離宮は、弟子が中心になって作っており、遠州が直接、作庭にかかわったという経過はなかったらしい。
 桂離宮そのものはブルーノ・タウトの「日本美再発見」によっていっそう有名になった。西欧的審美眼の裏づけを得たことで、建物も庭も不動の地位に立つことになったと学んだ。ただ、タウト→桂離宮→小堀遠州という流れはどうやら、ぼくの思い過ごしだったらしい。

 人間社会の伝説や歴史や物語というのは、多くのケースでこういうことがあるのだろう。「世間」はぼくも含めて、わかりやすいストーリーを好み、それらを蓄積してできていく。

 この作品は、遠州の生涯を行きつ戻りつしながら、様々な歴史上の人物との茶の交流を描いていく。武士の時代の茶とは何か、千利休と古田織部の違いは何か―。いろいろと学び、考えさせる小説でもあった。

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